17世紀オランダ共和国(連邦共和国)の構造 - 黄金時代の政治・経済・文化 -

広告

国の構成

七つの州の連合体 + 準州 + 連邦議会直轄領

  • 七つの州:ヘルダーラント、ホラント、ゼーラント、ユトレヒト、オーファーアイセル、フリースラント、フローニンゲン(各州が主権を持つ)
  • 準州:ドレンテ(裕福でなく十分な納税ができなかったため準州扱い)
  • 連邦議会直轄領:南部国境の緩衝地帯にあるオランダ領ブラバント、フランドル、リンブルフなど5つ(旧スペイン領であること、カトリック信者が優勢であること、などの理由から自由と自治が大幅に制限された国内植民地的な扱い)

政治構造

  • 連邦議会…外交、軍事と防衛、直轄領の統治など全州に関わることを取り扱う。全会一致が原則。会議場はハーグのビンネンホフ。連邦経費は各州から徴収(ホラント州が全体の58%を負担し、そのホラント州の財政の約44%はアムステルダム市が負担)。
  • 海事支庁…など国内に5つ:アムステルダム、ロッテルダム、ミッデルブリュフ、ハルリンゲン、ホールン/エンクハウゼン。海軍についての権限は海事支庁がもつ。関税を徴収して軍と艦隊の維持。独自の造船所。

  • 州議会…各州が主権と、連邦議会での投票権を持つ。構成員は地方から送られる都市、貴族、聖職者の代表。

地方

  • 都市…都市参事会が都市の統治を行う。市庁の役人の任命を行う。構成員は都市のエリート層(レヘント)。代表を州議会へ送る。
  • 農村…権力は土地を所有する家門(領主貴族)がそれぞれ持つ。代表を州議会へ送る。

共和国のリーダーシップ

ホラント州法律顧問

  • 本来は州から俸給を受け取る一役人で、本務は州議会の運営と管理
  • ホラント州議会と連邦議会の所在が同じハーグのビンネンホフ内だったことから 国レベルの仕事も兼務
  • 立地条件が手伝ってあらゆる政務に精通し、事実上の「首相 / 宰相」のような地位を占めることが可能なポストとなる

州総督

  • 元来は国王の代理として州の政治を担当する職
  • 国王廃止後は州議会に従属する地位(州ごとに総督を任命する)
  • マウリッツ以降、基本的には7州中5州の総督をオランイェ家の当主が兼務(残る2州はドイツ・ナッサウ家に連なる人物)
  • 「州総督」と「オランイェ家の当主」がほぼ同義となる
  • 州総督(オランイェ家の当主)が共和国軍最高司令官として国土防衛にあたる
  • 血筋によって権限を超えた権力を非公式に行使しうる存在

経済

漁業と国際貿易(海運業)の成功。主としてホラントとゼーラントの沿岸2州。(内陸州は依然として農業中心で沿岸州の豊かさを享受することは無かった。)

成功要因

  • 過去数世紀の間に関連産業が成長し始めていたこと(低地諸州沿岸部はもともと漁業が盛ん)
  • 保護主義的な経済政策がなかった(経済を指図する政府がない)こと
  • 政府の主導的立場に商人が就いていたこと(貿易を促進する対外政策)
  • 機能的なインフラストラクチャー
  • 都市部で世界最高水準の識字率となる教育制度
  • 天然の燃料=泥炭の存在

国内産業・工業

農林水産業

漁業:加工ニシン、鯨油/農業:酪農( チーズ、バター)、野菜、果物、花卉、ホップ

造船業

漁業に加えて海上貿易の拡大で造船業が栄える。風車を動力にした製材技術は、おそらく当時の欧州随一の最新技術。年間2000隻を進水。欧州2万5千隻の6割にあたる1万5千隻がオランダ船。アムステルダム北西のZaan地方に国内最大の造船所。

織物工業

スペイン領ネーデルラントから逃れてきた人々が新技術を伝えた毛織物工業は、ライデン市を中心に発展。戦争中もスペインから原料のメリノ羊毛を大量輸入。ハールレムでは亜麻織物の漂白業が栄える(ハールレム・ブリーチ)。

情報業

欧州の他国に先駆けてジャーナリズム(情報売買)が誕生。情報に商品価値を認める。

出版業

当時の他国に比べて自由な社会によって出版が増え栄える。

貿易に付随する業務

商業取引所、両替業、金融業、保険業、倉庫業

デルフト焼き

中国や日本の磁器の「複製」は失敗、「炻器(せっき)」の生産に成功

国際貿易

バルト海・ジブラルタル海峡・イングランド

  • ドイツ東部~ポーランドからオランダへ…ライ麦、小麦
  • オランダからドイツ東部~ポーランドへ…乳製品、塩漬けニシン・タラ、フランス産ワイン、スペイン産オ リーブ・塩・、フランドル地方の毛織物
  • オランダから南欧へ…穀物、イングランド産の羊毛、毛織物
  • 南欧からバルト海港へ…塩・ワイン・香料・ニシン・毛織物。
  • バルト海からオランダへ…スウェーデン産の銅(武器産業用)。ロシアの毛皮、獣皮、キャビア、宝石類。
  • レヴァントから西欧へ…アジア生産品(ペルシャやインドから商隊がもたらしたもの)

航路の発見と通商

航路の発見
1580年スペイン国王フェリペ2世が、ポルトガルのリスボン港に買い付けに来ていたオランダ人を締め出したため、オランダ人は自ら極東まで航海する道を選択。
成功要因
  • 徹底した準備
  • 作図法の発展
  • ネーデルラント南部からの移住者の取引経験の寄与
  • ヤン・ハイヘン・ファン・リンスホーテンの旅行記(スペイン、ポルトガル、インドで13年過ごす)

挑戦

北東航路
スピッツベルゲン島(のちに捕鯨基地)発見、座礁しノヴァヤゼムリャで越冬。第2弾では乗組員が嫌がったため船長の独断で航路を西方へ切替え、北米東岸から南方へ進みロングアイランド、ハドソン川を発見。アムステルダム商人が進出し、ニウ・アムステルダムを建設。
喜望峰経由の南東航路
ポルトガル人が開拓済みの航路。ジャワ島西北端のバンタム(現バンテン州)に最初のオランダ商館。
南米南端経由の南西航路
大西洋到達。フィリピンでスペイン船と交戦、残った一隻が喜望峰経由でオランダ帰還、大量の知識と情報を伝える。

独占会社の設立

探索航海の成功を受けて貿易会社が乱立し、香料の売値が下落。共倒れを危惧したオルデンバルネフェルトらにより、ホラント州5つとゼーラント州1つの貿易会社が併合されて「連合東インド会社(VOC)」が設立され、独占権が与えられる。皆で金を出し合う「出資」によって成るため世界初の「株式会社」と見なされる。この出資形態は中世以来のオランダの商習慣の積み重ねの自然な結果。

東インド会社(VOC)
1602年設立。遠隔地貿易、海運業、植民地経営。世界の東半分すなわち南ア喜望峰から中国・日本に至るエリアの貿易独占権を全州議会から与えられる。ジャワ島にバタフィア。スペイン、ポルトガル、イングランドとの対立から、重武装で航海、重要な貿易拠点には砦を築く。
西インド会社(WIC)
1621年設立。貿易会社を装った半官半民の私掠業だが、ブラジルを拠点に砂糖生産、奴隷取引

貿易網

  • ケープ植民地
  • インドとスリランカ
  • ジャワと香料諸島
  • 中国と日本
  • 米ハドソン川
  • スリナム

日蘭

  • ポルトガル船に乗って来日したオランダ人の旅行家、ディルク・ヘリッツソーン・ポンプ(1570)。
  • リーフデ号の漂着(1600)。オランダ人のヤン・ヨーステン・ファン・ローデンステン。イングランド人航海士のウィリアム・アダムズ。
  • 平戸オランダ商館(1639-1640)
  • 医術…シーボルト
  • 砲術

広告

科学

シモン・ステファン(1548-1620)

数学者 物理学者 要塞建築家 コペルニクスの地動説を支持 「帆走戦車」を発明 オランダ語を学術語として広める

クリスティアン・ハイヘンス(1629-1695)

円の求積法 衝突現象 高額 確率論 「振り子時計」の発明

アントニ・ファン・レーフェンフック(1632-1723)

顕微鏡で微生物の研究(原生動物 バクテリア 赤血球 精子)

建築

  • ゴシック古典混合様式の代表格アムステルダムの西教会と南教会
  • ダム広場のアムステルダム市役所(現在は宮殿)
  • 三つの同心円状の新運河(the Herengracht, the Keizersgracht, and the Prinsengracht)に沿って建築された多くの住居  

絵画

装飾を排除した改革派教会が優勢に立ったことで宗教画の需要が激減し、画家は新たな顧客とジャンルを模索。顧客は王侯貴族やカトリック教会から一般市民(ブルジョワのみならず一介の職人や農民)へ移り、市場や祭りで他国に比して膨大な数の絵画が売り出される。宗教改革後もカトリックを守った富裕な層からは「隠れ教会」を飾るための絵画が発注された。

時期

  • 第一期…1590年-1621年 マニエリスムの影響を受け豪華で色彩豊か
  • 第二期…1621年-1645年 小ぶりな絵画 単色、灰褐色、黄褐色(スペインとの戦争再開で染料が入手困難) 
  • 第三期…1654年-1672年 建築画 風景画 海景画
  • 第四期…1672年「災厄の年」を機に急速に衰退

画家

  • フランス・ハルス(1581-1666)アントウェルペンからハールレムに移住 生き生きとした自然な表情と構図 集団の肖像画
  • ヘリット・フォン・ホントホルスト(1590-1656)ユトレヒト カラヴァッジョ風の明暗法
  • ウィレム・クレーソン・ヘダ(1594-1680)静物画
  • ヤン・ファン・ホイエン(1596-1656)風景画
  • ピーテル・サーンレダム(1597-1665)建物
  • レンブラント・ファン・ライン
  • ヘリット・ダウ(1613-1675)ライデン 細密画の巨匠
  • カーレル・ファブリティウス(1622-1654)多芸多才
  • エマニュエル・デ・ウィッテ(1617-1692)教会内部
  • ピーテル・デ・ホーホ(1629-1684)家庭内の日常風景
  • フィリップス・ワウェルマン(1619-1668)馬 騎兵 小戦闘
  • パウルスポッテル(1625-1654)家畜
  • アールト・ファン・デルネール(1603-1677)
  • ヨハネス・フェルメール(1632-1675)デルフト 
  • ヘリット・ハウクヘースト(1600-1661)建築画
  • ヘリット・ベイクヘイデ(1638-1698)建築画
  • ヤーコプ・ファン・ライスダール(1628-1682)風景画 雄大 詩趣に富む
  • メインデルト・ホッベマ(1638-1709)風景画 雄大 詩趣に富む
  • ウィレム・ファン・デ・フェルデ[子](1633-1707)英蘭戦争の海戦
  • ヤン・ダー・フィッツソーン・デ・ヘーム(1606-1684)豪華な静物画
  • アブラハム・ファン・ベイエレン(1620-1690)豪華な静物画
  • ヤン・ステーン(1626-1679)風俗画 ユーモア
  • ヘラルト・テル・ボリュフ(1617-1681)風俗画
  • ハブリエル・メツー(1629-1667)風俗画
  • カスパル・ネッチェル(1635-1684)肖像画 ウィレム3世が保護
  • バルトロメウス・ファン・デル・ヘルスト(1613-1670)集団の肖像画
  • カレル・ファン・マンデル(1548-1606)

参考資料

書籍:
図説オランダの歴史 (ふくろうの本) [ 佐藤弘幸(オランダ史) ]
物語オランダの歴史 大航海時代から「寛容」国家の現代まで (中公新書) [ 桜田美津夫 ]
オランダ小史 先史時代から今日まで [ ペーター・J・リートベルゲン ]