
☆ファルケンブルフ☆
クリスマスマーケットと歴史を楽しむ
ー洞窟は戦時の防空壕ー
昨年ですが、オランダ南端の町ファルケンブルフに行ってきました。立ち寄ったのは洞窟クリスマスマーケット、ファルケンブルフ城、サンタ村です。
行ってみて知ったことや、気になって後日調べたことを書き留めました。それぞれの項の末尾に旅行情報も載せています。
「行ってきたよ、うへーい!(写真18枚)」な臨場感あふれるユルいレポートは別途こちらにあります。
「ファルケンブルグ」と入力してサーチエンジンで検索すると、ライデンに近い「ファルケンブルグセ(湖)」がヒットする場合があります。クリスマスマーケットが有名なオランダ南端の町は「ファルケンブルフ」と入力すると出てきやすいようです。ちなみにフルスペルは「Valkenburg aan de Geul」。
もくじ
洞窟クリスマスマーケット
冬のファルケンブルクは洞窟の中に店が並ぶ「洞窟クリスマスマーケット」が有名です。「市民洞窟」と「ベルベット洞窟」の2つの洞窟でクリスマスマーケットが開催されます。イベントの開催がない期間は、ガイドツアーで洞窟を見学できます。
市民洞窟[Gemeentegrot]

ひとつめは市民洞窟[Gemeentegrot]です。
石灰岩(ライムストーン)の洞窟に灯りがともされ、迷路のように連なる通路に売店が並びます。ヨーロッパでもっとも大きな「洞窟クリスマスマーケット」だそうです。1986年から毎年開催されていて、30年以上も続いている冬の大イベントです。
わたしは2018年12月のクリスマスマーケットに行ってきました。夕方だったので空いていましたが、翌朝にはチケット売り場に長い列ができていました。近郊から日帰りで来る人が多いのかもしれません。
チケットはあらかじめオンラインで購入することもできます。
クリスマスマーケット以外の季節(通年)
クリスマスマーケット以外の季節には、洞窟ツアーが開催されています。洞窟の成り立ち、歴史、壁画や彫刻、空襲用のシェルターなどを見学するツアーに参加できます。
なんと宿泊もできるようです。といってもラグジュアリーなものではありません。75年前(つまり戦時中)に、ここに潜んだ市民がすごした夜を追体験するという趣旨です。興味深いですね。
採掘されつづけて2千年
1500年頃からは泥灰岩の採掘もはじまり、20世紀半ばまで続けられました。
石灰岩とは「炭酸カルシウムを50%以上含む堆積岩(石灰岩 limestone)」だそうで、泥灰岩とは「粘土成分と炭酸塩成分が混在する堆積岩(ぶどう畑の土壌 4 堆積岩)」だそうです。
この地は太古のむかし海の中にあったので、岩の中に貝殻を確認することができるそうです。
キノコ栽培・マスの養殖、戦争用のシェルターまで
戦後はマスの養殖場、続いてチーズの熟成部屋、そしてミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシ)の飼育に利用されてきました。冷戦時代には、もうひとつシェルターが設置されました。1万5千人を収容できるという原爆用のシェルターです(!)
市民洞窟には上記2つのシェルターにくわえて、フランス革命時代のシェルターも設置されているそうです。これらのシェルターはすべて「Hiding-place through the centuries」という名の特殊なツアーで見学できるようです。
なお、この洞窟が市民洞窟[Gemeentegrot]と呼ばれるようになったのは、洞窟の所有権が市に移った1892年からだそうです。入口とシェルターは国定史跡になっています。
ベルベット洞窟[Fluweelengrot]

こちらのクリスマスマーケットは市民洞窟よりも売店の数は少なく規模はちいさめのもよう。
私は未踏なので詳しくお伝えできませんが「城に通じる、かつての秘密の通路」と聞いて、クリスマスマーケットそっちのけで入場したい気持ちが高まっています。
通年のオープン日時は月によってまちまちなので公式サイトで事前の確認をお勧めします。
- 旅レポベルベットの洞窟 | オランダから子供とおでかけ
- 2014年の3月にお子さんと一緒におでかけされた方の旅のレポートです。



【こぼれ話】すっかり裏をかかれてしまった敵軍
こんな逸話が伝えられています:
中世、ファルケンブルク城をブラバント領の軍が包囲したときのこと。長期の包囲にもかかわらず城壁の中では祝宴が催されていました。不思議に思ったブラバント軍は、秘密の抜け穴から物資が補給されていることに気づきます。
しかもなんと、その物資こそ、ブラバント軍が留守にしているあいだに本拠地ブラバントから略奪されていたものだったのです。
これは公式ウェブサイトで紹介されていた逸話です。
洞窟のなかのチャペル(礼拝堂)
リンブルフ州南部でいちばん古い洞窟
旅行情報(洞窟)
洞窟に入れる日や時間は季節によって変わります。以下に、クリスマスマーケットのシーズンとその他のシーズンの基本情報を掲載します。最新情報や詳細は各公式サイトで確認してください。
クリスマスマーケットの季節
- 市民洞窟[Gemeentegrot]
- ウェブwww.kerstmarktgemeentegrot.nl
- 所在Gemeentegrot
- 2019年のクリスマスマーケット
- 期間11月15日~12月29日
- OPEN日-木10:00-19:00 / 金土10:00-20:00 / 12月24日&26日 10:00-18:00
- CLOSE12月25日
- 入場料大人€7.50/5~11歳€5.00
- ※チケットオフィスは終了時間の45分前に閉まります。
- ベルベット洞窟[Fluweelengrot]
- ウェブhttps://www.kerstmarkt-fluweelengrot.nl/
- 所在Fluweelengrot
- 2019年のクリスマスマーケット
- 期間11月15日~12月29日
- OPEN日-木10:00-19:00 / 12月24日&26日 10:00-16:00
- CLOSE12月25日
- 入場料大人€7.50/5~11歳€5.00
- ※チケットオフィスは終了時間の45分前に閉まります。
その他の時期(通年)
市民洞窟[Gemeentegrot]
- ウェブwww.cave-experience.nl/en/
- 所在Gemeentegrot
- OPENOPENING HOURS AND ENTRANCE FEES ※季節により変動
- 入場料(ツアー別)
- 通常ツアー[Individual entrance]€9.25
- リバティツアー[Liberty Tour]€12.50
- 隠れ家ツアー[Hiding-place through the centuries]€11.50
- 体験宿泊[Old Hickory shelternight]€39.95
ベルベット洞窟[Fluweelengrot]
- ウェブVelvet Cave
- 所在Fluweelengrot
- OPENOpening hours※季節により変動
- 入場料ツアー大人€13,00(ファルケンブルフ城の自由見学込)
ファルケンブルフ城[Kasteel Valkenburg]
国土のほとんどすべてが平地のオランダで唯一(!)丘の上に建っていたのがファルケンブルフ城です。城にはいくつか地下道への入口があり、ベルベット洞窟につながっていました。
オランダ人みずからが泣く泣く破壊した城

ファルケンブルフ城は長い歴史のなかで何度も包囲されました。破壊されては再建を繰り返しましたが、その最後となったのは17世紀です。1674年にオランダ人みずからの手で破壊することになりました。
それはフランス(ルイ14世の)軍がオランダを侵略*1したときのことでした。フランス軍は、効率よくオランダに侵攻するために、まずトンゲレンとファルケンブルフの城(要塞)を押さえました(1672年6月)
オランダは2年後にファルケンブルフ城の奪還に成功しますが、ふたたびフランスの手に堕ちることを防止するため、時の総督*2(ウィレム3世*3)が城の破壊を命じたのです。
その後、荒廃したファルケンブルフ城は何度か転売され、現在はベルベット洞窟とあわせて tichting Kasteel van Valkenburg が所有し保存に努めています。
*1 フランス軍のオランダ侵攻…スペインから独立して間もないオランダをフランスが侵略した戦争。先立つ南ネーデルランド(現ベルギー)継承戦争でオランダがフランスをけん制したことに対する報復。オランダ侵略戦争 | 世界史の窓
*2 総督…オランダ共和国の軍事で一番えらい人。スペインとの戦争が終わったオランダでは総督職を設けない方針を採っていたが、英仏(+独司教)からの同時攻撃にさらされて市民が悲鳴をあげた「災厄の年」に総督職の復活が決まった。
*3 ウィレム3世…総督職を世襲していたオランイェ公爵家の嫡男。妻は、英ステュアート家のメアリ(王政復古期の英国王チャールズ2世およびジェームス2世の妹)。フランスの侵攻を食い止めたのち、イギリス名誉革命で担ぎ出され、妻メアリの女王即位に伴って英国王位に就いた人物。
ファルケンブルフ城と領主の歴史 なぜ狙われたのか
神聖ローマ皇帝との関係
しかし領主は神聖ローマ皇帝ハインリヒ5世と折り合いがわるく、争ったために城は包囲されて破壊されました。皇帝の依頼を受けて攻撃を実行したのはブラバント侯の祖先にあたる人物でした。
城は再建されましたが、次代の領主も時の神聖ローマ皇帝コンラート3世と争いになり、城と城下町が破壊されてしまいました。
しかし皇帝位がフリードリヒ1世(バルバロッサ)に引き継がれてからは、皇帝と良好な関係を築きます。ファルケンブルクの領主は息子を伴って、皇帝のイタリア遠征にも参画しました。
(この戦いで長男Gosewijn IIIは功績をのこしたようです。その栄誉としてイタリアのロンバルディア地方に付属する地域の管理を任されるなどしました。また Gosewijn III の弟フィリップはケルンの大司教の職に就いています。)
しかし Gosewijn III の息子の代で同家の男系が途絶え(1212)城を含む領地は女系を通じて他家へ相続されることになりました。
ブラバント侯による破壊

14世紀にはいると城に十角形の塔が建てられました。しかし今度は隣邦のブラバント侯(Jan III van Brabant)に攻められて徹底的に破壊されてしまいました。
これは、時のファルケンブルフ領主(Reinoud)がとても高い通行料を課したことが始まりでした。高額な通行料によってマーストリヒトの交易に損害がでたので、マーストリヒトの人々はその窮状をブラバント侯に訴えて助けを求めたのです。
途中に和約を挟みながら争いは10年におよび、1329年にファルケンブルクの領主が降伏して決着しました。
戦いのなかにはブラバント軍の支援を得たマーストリヒトの人々が大勝利をおさめたものもありました(1327年7月4日)。この勝利を記念する行事がつづく数世紀のあいだマーストリヒトの聖セルファース教会で行われていたそうです。
ファルケンブルフ邦の消滅

そんなわけで現在の城跡のおもな部分は、14世紀以降に再建されたものです。城壁は2つの塔を備え、城は2つのウィングをもっていました。敷地内では、城が拡張される過程と在りし日の模型を見ることができます。
1352年、ファルケンブルフを継承していた家系が途絶えます。最後の領主の死後、めんどうが起こった数十年を経て、1378年、ファルケンブルフはブラバント侯領に併合されることになりました(!)
八十年戦争とフランスの侵攻

ファルケンブルフ城はふたたび、16-17世紀の八十年戦争(1568-1648)*4ではげしく損傷しました。当時の新兵器「大砲・迫撃砲」の攻撃に耐えられなかったのです。城壁は破壊され、塔は倒れ、屋根は焼け落ちて灰になりました。
オランダ兵は城の再建を試みましたが成功しませんでした。まもなくフランスとの戦争(1672-1678)がはじまり、フランス軍に占領されてしまったからです。奪還したあとは、上述のように、再びフランス軍の手に渡ることを懸念してみずから破壊することになりました。
*4 八十年戦争…スペインの支配下にあったオランダ地方がスペインに反乱を起こして、結果的にオランダ(ネーデルラント連邦共和国)の独立に至った戦争。1568 – 1648年:八十年戦争を経てネーデルラント連邦共和国が独立
旅行情報(ファルケンブルフ城)
- ウェブKasteelruïne & Fluweelengrot
- 所在Daalhemerweg 27, 6301 BJ Valkenburg
- OPENOpening hours
- 入場料大人:€13.00(Castle Ruins & Velvet Cave)/洞窟に入れないシーズンはほぼ半額になっていたと思います。
サンタ村[Santa’s Village]
ファルケンブルフ市の中心の広場がサンタ村になります。シャレー風(アルプスの木造家屋)の建物がならび、スカーフやジャケット、手作り品の販売や企業の出店があります。
駅⇔洞窟クリスマスマーケットの間に立ち寄りたいサンタ村

小腹がすいたら、あたたかいワッフルや、ドーナツ、チェロス、クレープを買うことができます。ホットチョコレートやモールドワインもありました。
モールドワインは、赤ワインに砂糖やたくさんのスパイスを入れてあたためたワインです。
旅行情報(サンタ村)
- 2019年のクリスマスマーケット
- 期間11月15日~12月31日
- 所在Theo Dorrenplein, 6301 BX Valkenburg
- ウェブwww.santasvillage.nl
- 入場料無料
- OPEN月火木:12-21 / 土曜:10-21 / 日:10-19
- ※24日と31日は17時まで
- ※23日以降は19時まで
- ※25日はたぶん閉まってる?
感想:何も知らずに訪れた場所
洞窟の中でクリスマスマーケットを開催してる町がオランダにある…という情報は、日本から来た身内に教えてもらってはじめて知りました。そんな一風変わったクリスマスマーケットを目的にでかけた町には、城跡もあり、城塞好きの私はとても楽しい時間を過ごしました。
ファルケンブルフはテーマパークさながらのツーリストスポットでイルミネーションも華やかでした。一気にクリスマス気分が高まります。
旅行は、現地で気になったこと、知りたくなったことを帰宅してから調べるのがまた楽しく、知識を得ると「もう一度行きたい!」と思います。
たいてい妄想旅行になりますが、オランダ国内ならまだ実際に行けるチャンスがありそうです。
次はクリスマスマーケット以外の季節に訪れるのも楽しそう。市民洞窟のツアーで見れるというシェルターも気になりますし、ファルケンブルフ城に通じるベルベット洞窟の秘密通路にも入ってみたいです。
ガイドツアーはオランダ語だそうですが、公式ウェブサイトによれば英語のオーディオガイドを借りれるそうです。
そして、クリスマスマーケットというテーマにも興味がわきました。フランスやイタリア、スペインにも行ってみたいです。これは妄想旅行になるかもしれませんが!

甘くないふわふわ生クリームはペロリとお腹におさまります。いま思えば、デンボッシュのボッシュ・ボルと似ていました。食事前だったからか、シェアして食べました。でも次は丸一個食べたいですね、おいしかったです。
関連情報と参考資料
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オランダの歴史
オランダおでかけ日記
新型コロナによる影響
最新情報など
- 在オランダ日本大使館
- 新型コロナウイルスについて(日本国大使館より発出した過去の領事メール等)
- ポートフォリオ・オランダニュース
- オランダ国内に関する日本語ニュースサイト
- RIVM Committed to health and sustainability
- Current information about the novel coronavirus (COVID-19)
- dutchnews.nl
- DutchNews.nl is a provider of quality Dutch news and current affairs in English for an international audience.
- 外務省海外安全ホームページ
- 外務省海外安全ホームページ
もっとファルケンブルフ
参考資料
- 市民洞窟 および ベルベット洞窟
- Gemeentegrot Christmas Market Municipal Cave Cave Experience | MUNICIPAL CAVE VALKENBURG Velvet Cave Christmas Market Velvet Cave Christmas Market | Stichting Kasteel van Valkenburg Fluweelengrot
- ファルケンブルフ城
- Franco-Dutch War Valkenburg aan de Geul | Discover Zuid-Limburg Valkenburg Castle Kasteel Valkenburg Kasteel Valkenburg Franco-Dutch War Gosewijn I van Heinsberg GosewijnII van Valkenburg-Heinsberg Gosewijn III van Valkenburg Gosewijn IV van Valkenburg Dirk I van Valkenburg-Heinsberg Reinoud van Valkenburg John III, Duke of Brabant Jan III van Brabant Dirk IV van Valkenburg Jan van Valkenburg List of gentlemen from Valkenburg List of counts of Brussels and dukes of Brabant
- サンタ村
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