ジェーン・オースティンの小説は18世紀末~19世紀初頭の地主階級(ジェントリ)社会を舞台に描かれています。地主階級(ジェントリ)は作家本人が属した階級です。小説に登場する一部のヒロインは裕福ではない家庭に生まれ(自負と偏見マンスフィールドパーク)、他方はとても裕福な家庭に生まれています(エマ)が、いずれとも同じ階級に属しています。

貴族とジェントリの違い

  • 上流層(Upper class)
  • 中産層(Middle class)
  • 下層(Lower class)

という階層において、貴族階級と地主(ジェントリ)階級は上流層に該当する。上流層の階級は上から

  • 国王(king)
  • 貴族階級(Peerage)
  • 地主階級(Gentry)

と並ぶ。貴族と地主階級の違いはなにか?それは、貴族には爵位があるいっぽうで、大地主には爵位がないこと。これが両者の決定的な違い。

ただし紋章を持つ権利を得ている地主階級の家系もおおく、近い親戚が貴族という場合もある。そんな場合は地主階級といえど、大陸でいうところの「貴族」にほぼ等しいものとみなさる。

とはいえ「血統」は、イングランドの地主階級を決める必須要素ではない。このためこの地主階級は、革命前のフランスの身分制度などと比べると流動的だった。

ヨーマン(自由農民)身分から身を起こして地主階級に仲間入りしていた家系もある(Sir Edward Phelips /16世紀)。また19世紀のはじめ頃には、ビジネスで成功した富裕層が多数、地主階級に仲間入りしている。

参考:Landed gentry / Gentry | Georgian society in Jane Austen’s novels

貴族階級(ピアレッジ / Peerage)のなりたち

概要

貴族階級とは、国王から「公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵」の称号を授けられた人々を指す。世襲制。なお、一代限りの貴族(baron)の制定は20世紀(1958)。

略史

ウィリアム征服王がイングランドを征服した時(1066)、イングランドを荘園(マナー / manors)単位に分割した。これが、のちに男爵領(バロン / barons)として知られる。

より多くの荘園を所有するものは「大男爵(大バロン / Greater Barons)」として知られ、より少ない荘園を所有するものは「小男爵(小バロン / Lesser Barons)」として知られるようになった。

王が男爵を王立評議会に召喚するとき、大男爵は国王(Sovereign)から個別に召喚されるいっぽう、小男爵は州長(シェリフ / sheriff)を通じて召喚された。1254年からは小男爵が召喚されなくなるいっぽうで、大男爵の召喚は「貴族院(House of Lords)」に発展した。これは必然的に世襲制となり、14世紀の初めには世襲制が確固なものとなった。

「男爵」と「伯爵」の制定年は封建制時代、じつにアングロサクソン時代(9世紀~10世紀)まで遡る。「公爵」と「侯爵」は14世紀に制定され、「子爵」は15世紀に制定された。

14世紀末、この権利(称号 / 爵位)は法令により認められ、長子相続制(primogeniture)によって所領と共に世襲制となった。

参考:Peerages in the United Kingdom / Peerage of Great Britain / Peerage of England / House of Lords / History of the British peerage

ある公爵夫人の生涯 (字幕版)
著者/監督:

18世紀の英国。公爵家に嫁いだジョージアナは美貌のファッショニスタとしてセレブ界を魅了。だが公爵にとって、妻は男子後継者を産むだけの存在でしかなく、彼女の親友エリザベスを愛人に迎える。屈辱にひたすら耐えるジョージアナは、孤独な肉体を癒すように若き政治家とのスキャンダラスな愛に堕ちていく…

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地主階級(ジェントリ / Gentry)のなりたち

概要

地主階級(ジェントリ / Gentry)とは上流社会の最下の階級で、作家ジェーン・オースティン、そしてその小説に描かれる人々が属している。

地主階級の条件としては、所有する土地から収入を得て独立していることが大前提となる。少なくとも田園邸宅(カントリーハウス)を所有していることが必要になる。しかし、貴族のような爵位や血統を示す名前などは必要ではない。このためこの階級に属する人は流動的で定義がむずかしい。現行のメンバーが認めればその一員とみなされる。貧しい貴族よりも経済的に裕福なケースもありうる。

地主階級の一家は長男が土地を相続するいっぽうで、次男以下は国務に就くよう促された。上流社会では商売は卑しいとみなされたため、次男以下は軍人・法律家・聖職者になることがおおむね決まったパターンとなっていた。(地主階級は、16世紀の後半から「政治・軍事・法律」に密接に関わるようになっていた。)

メモ:1832年に至るまで、参政権(投票権)はほとんどが土地の所有者に限られた。広大な土地を借りて農業に従事する者や自由民(Yeoman / Franklin)の農民は中産階級とされ、所有(freehold, leasehold または copyhold)する土地の価値が一定以上の場合は投票権を得られた。しかし、不自由のない生活を送って自らが耕作に携わることがなくても、やはり地主階級とは一線を引く階級であった。

19世紀の産業革命によって現れた新興の金持ちの多くは、地主階級のステータスを欲した。しかし田園邸宅(カントリーハウス)を購入するだけではじゅうぶんではなく、彼らを富裕にした ビジネス / 商売 との結びつきを断ち、汚点を浄化することが求められた(商売は卑しいという観点から)。とはいえ産業革命によって増え続ける富裕層が政治的に無視できない存在となりはじめるにしたがい、ステータスへの条件はそれなりに緩んだようだ。

地主階級に属する人々を細分すると上から、バロネット(準男爵)・ナイト(騎士)・エスクワイヤ(郷士)・ジェントルマン(紳士)。

すべての準男爵および、多くの騎士・郷士・紳士は紋章(court of Arm)を持つ権利を得ていた。準男爵と騎士そして一部の郷士は国王から授与される称号だが、紳士には明確な条件はなく「人格」が問われる。

ジェーン・オースティン没後の話になるが、19世紀の終わりに起きた農業不況(1873-1896 Great Depression of British Agriculture)によって、この階級は衰退をみせる。しかし現在のイギリスにはそれなりの数のジェントリが残っており、彼らの多くはビジネスの手法を土地の売買に切り替えて難を切り抜けたそうだ。

バロネット(準男爵 / Baronet)

14世紀(1328)にエドワード3世によって制定された世襲制の称号。国王から授与される。

17世紀(1611)に国王ジェイムズ1世は資金調達を目的として、由緒ある家系で年間£1,000以上のジェントルマン200人を準男爵に格上げ(見返りに兵士維持費を要求)。準男爵に「Sir」の敬称を付与した。

準男爵は貴族には属さないとされているが、19世紀の文筆家ウィリアム・トーマス(William Thoms)は、準男爵について「小貴族(nobiles minores)の頂点と考える人もあれば、貴族(nobiles majores)の最下位と考えるひともいる」と説明する。貴族院に議席はない。

参考:Baronet

ナイト(騎士 / Knight)

起源は中世の軍事ランク。ページ(Page)⇒スクワイア(Squire)⇒ナイト(Knight)。騎士は精鋭戦士の臣下あるいは領主の護衛や傭兵として務め、見返りに領地の保有を認められた。

中世の終わりには上流社会の一員とみなされるようになった。封建時代がおわり時代がくだると、騎士の称号は国家に貢献した民間人にも与えられるようになった。

敬称は準男爵と同じく「Sir」だが、ナイトの称号は一代限りで世襲できない。

参考:Knight

エスクワイヤ(郷士 / Esquire)

中世の軍事ランクで、起源は騎士見習いの「squire」。

時代がくだると、国家から授与される「栄誉 / 名誉(honour)」となった。また習慣的に、法廷弁護士・市長・治安判事および、軍事の高官などが該当すると見なされている。

参考:Esquire

ジェントルマン(紳士 / Gentleman

イングランドの「ジェントルマン」の起源は諸説あるが、中世(12世紀~15世紀)とされている。

地主階級のなかでエスクワイヤ(郷士)の下位に位置づけられている。しかし定義や範囲はあいまいで時代や人によって見解が異なる。具体的には貴族の次男以下の次男以下(貴族の親戚)、郷士や騎士の息子などが該当する。

参考:Gentleman

ジョージアン期のジェントルマン

ジョージアン期の「ジェントルマン」は、地主階級としてのステータスに加えて「人格」が大切な要素と考えられた。

ジョージ3世の治世の頃(18世紀末)から、彼らはその「自制心」を誇りとして、南欧の荒い気質の人たちと自分たちを区別することを理想とした。

ビクトリアン期以降のジェントルマン

ジョージアン期の「ジェントルマン」の概念が先駆けとなって、ビクトリアン期(19世紀)以降には次の3つの規範に基づく概念が形成される。

  • Restraint <冷静、自制>
  • Refinement <洗練、上品、教養、精妙>
  • Religion <信条>

Nobility / Peers / Gentry の違いは?

Peers は貴族で、Gentry は大地主。いずれも上流階級のメンバだが、貴族には爵位があるいっぽうで、大地主には爵位がない。これが Peers と Gentry の決定的な違いだが、問題は、ところどころで目にする nobility という言葉。誰が含まれるの?

イギリスの現代英語では、nobility はほぼ peers と同義語だそう。そうはいっても、一般的には爵位のあるなしが問われる言葉ではないらしい。

じゃあどう見分ければよいのかというと、 Gentry and nobility によれば「(英国において)爵位付きの nobility =貴族階級(peers)。そして、爵位なしの nobility =おおむね地主階級(Gently)。」ということらしい。

結局は、文脈から察してください…ってことかなと思った…^^;

関連リンク

摂政時代のイギリス

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イギリスの歴史年表

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イギリス史を英語で読んでみたい人におすすめの本(目安 TOEIC 650点)

The Story of Britain
著者/監督:Patrick Dillon

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