年表ベースでまとめた世界史ノートです。

ヨーロッパ編 / その他編

1511年:エラスムス著『愚神礼賛』が刊行される

Two Marginal Drawings in a copy of “The Praise of Folly” by Erasmus of Rotterdam.
☆ By Hans Holbein – Christian Müller; Stephan Kemperdick; Maryan Ainsworth; et al, Hans Holbein the Younger: The Basel Years, 1515–1532, Munich: Prestel, 2006, ISBN 9783791335803., Public Domain, Link

ルネサンス 宗教 / 思想

ロッテルダム(現オランダ)生まれの人文学者エラスムス(生没1466 – 1536)が、1511年に『痴愚神礼讃(In Praise of Folly)』を刊行しました。 ロンドン(トマス=モア宅)に滞在していた1509年に着想を得て一気に書き上げたという戯文です。

エラスムスはまたギリシャ語を学んで聖書の原典*1にあたり、1516年に『校訂新約聖書』を刊行しました。

*1 聖書の原典
4世紀末にラテン語に訳された新約聖書は、そもそもはギリシャ語で書かれていた。 なぜギリシャ語か:なぜギリシャ語で | 日本キリスト教団

「エラスムスが産んだ卵をルターが孵した」といわれますが、エラスムスはルターの思想には同調しませんでした。

『痴愚神礼賛』とは

『1523年のエラスムス』(ハンス・ホルバイン作)
ハンス・ホルバインWeb Gallery of Art:   画像  Info about artwork, パブリック・ドメイン, リンクによる
人間とは賢明なものではありません。 おとぎ話を愛し、ばかげている物事により魅力を感じます。 『痴愚神礼賛』では、人間の愚かさをつかさどる神モリアが、多様なひとびとの数々の愚かさの例を挙げて指摘しています。 自惚れによる幸福感、乱心による結婚、そして、教皇はじめ聖職者たちの偽善、最大の愚行である戦争などです。 しかし、これらはみな痴愚神のなせる業だとして痴愚神みずからが誇らしげに語る体裁で書かれているところに、この本のユーモアと皮肉さと辛辣さがあり、読者をクスクスと笑わせます。

1511年に印刷されたこの本は、瞬く間にベストセラーとなりました。 しかしエラスムス自身はこのように人気を博すことを予想していませんでした。 1509年、ロンドンのトマス=モア宅に滞在中、体調不良のためベッドにいる期間がありました。 これはそのときに書き上げたもので、さらに一般向けではないラテン語(学者向け)を用いています。

エラスムスはこの本を、友人であるトマス=モア*2に捧げています。 原文のタイトルは「Moriae encomium」で、トーマスの姓「モア」を暗示しています。 意訳すれば「Praise of More / モアの称賛」となるところですが、その内容から「Praise of Folly / 愚かさの称賛(痴愚神礼賛)」と訳されました。

*2 トマス=モア(1478年 – 1535年)
イングランドの法律家、思想家、人文主義者。政治・社会を風刺した『ユートピア』の著述で知られる。 イングランド国王ヘンリ8世に仕え、離婚に反対し刑死した。

痴愚神が道徳者、説教者をののしり皮肉る形をとっているため、しばしば教会から発禁処分をうけました。

500 years Praise of Folly | Erasmus Center for Early Modern Studies愚神礼賛 | 日本大百科全書 | コトバンク

エラスムスの年譜
1466年 (0)
司祭の非嫡出子としてロッテルダムに生まれる
少年時代
デベンテルの「共同生活兄弟会」
1488年 (22)
ステインのアウグスティヌス派の修道院に入る
カンブレーの司教の秘書を務める
1495年 (29)
パリに遊学、古典ラテン文芸の研究に没頭
自活のためイギリス貴族の子弟の個人教授を務める
1499年 (33)
教え子とイギリスに渡る
トマス・モアやジョン・コレットらの人文学者と知り合う
1500年 (34)
パリに戻る
ギリシア語の勉強をやり直して聖書研究に専心
1504年 (38)
『キリスト教戦士必携』
1506年 (40)
イタリアからイギリスへ旅行
1509年 (43)
ロンドンで『愚神礼賛(ぐしんらいさん)』の着想を得て執筆
1511年 (45)
『愚神礼賛』初版刊行
1516年 (50)
『キリスト教君主の教育』を公刊
スイスのバーゼルで『校訂新約聖書』を刊行
『ヒエロニムス著作集』を公刊
1524年 (58)
『自由意志論』(ルターと論争、決定的に分裂)
晩年
教皇に請願して僧籍を脱する
スイスのバーゼルに移住(1514–1516, 1521–1529, 1535–1536)、死去(1536年69歳)

日本大百科全書 | コトバンク

動画

タイトル:Erasmus and the Bible
公開者:Icons of Insight

Praise of Folly | BRITANNICAErasmus | BRITANNICA 『世界史図説タペストリー 十七訂版』2019.2 帝国書院

痴愚神礼讃
著者/監督:デシデリウス・エラスムス/沓掛良彦

ルネサンス期の大知識人エラスムスが、友人トマス・モアに捧げた驚天動地の戯文。痴愚の女神なるものを創造し、人間の愚行を完膚なきまでに嘲弄する。堕落する教界、腐敗を極める世俗権力。当時の社会、人びとを観察し、エラスムスが描き出した痴愚や狂気は、いまなお私たちをとらえてはいないか。ラテン語原典からリズ...

出版社/発売元:中央公論新社
発売日:2014年01月

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『旅』する 空想ときどき現実
地図バーゼル大聖堂
訪ねるBasler Muenster
エラスムスはスイスのバーゼル大聖堂に眠る。
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動画ERASMUS, Desiderius. The Praise of Folie. 1569 recte 1549. Peter Harrington Rare Books.
Presented by Adam Douglas, Senior Rare Book Specialist at Peter Harrington Rare Books.
動画The Praise of Folly (1509) by Desiderius Erasmus
It is most famous for its merciless attacks on corruption within the Roman Catholic Church, but its humor is comprehensive to all foibles of humanity.

冒頭の写真:Marginal drawing of Folly by Hans Holbein in the first edition of Erasmus’s Praise of Folly, 1515 ☆ By Hans HolbeinWeb Gallery of Art:   Image  Info about artwork, Public Domain, Link